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境配慮になるとは限らない。むしろ逆のケースが多い。たとえば水域を遮蔽して波、流れの静穏な海面を確保しようとすることと、水域内外の水の交換など環境への配慮事項である。環境か安全かの問題でもある。両者の接点をどこに見いだすか容易でない。
4−2.シーブルー型事業の推進
海域の環境創造は高く付くことが容易に想像される。環境創造に当たる事業は最近になって増加しているが、事業費的にはわずかである。そこで、規模はささやかであっても、また環境創造のレベルは低くても、できるだけ自然を尊重し、自然の力を利用して、利用に応じた環境創造、をめざす。
海域の水質改善では、泳げる程度、触れる程度、眺める程度の順にレベル分けする。利用の目的に合わせた水質の確保を目指し、有限の領域を取り囲むなどして海水の浄化を行う。海水の浄化には潮汐、潮流、波、風、太陽熱など自然のエネルギーをフル活用し、電気エネルギー、機械エネルギーなどの利用は最小限に止める。海水の浄化には、物理的な濾過、沈降促進の他、とくに植物、動物、微生物の摂取、吸収、分解作用も活用する。沈澱池、砂濾過、リビングフィルター、エアレーション、れき間接触酸化装置、人工干潟などが主な浄化手段である。東京湾、三河湾の代表地域でケーススタデーを行った(図−3参照)(参考文献2))。
規模としては、せいぜい各地のイベント広場の感覚である。こうしてスポット的に快適な海域環境を創造していくわけであるが、基本原則は、浄化して利用し、利用によって周辺を汚染しないということである。この種の事業の難しいのは財源の確保である。初期投資は相応額が必要であるが運転、維持費は後になってトラブルのもとになっている例が多い。運転、維持費などは利用による収益を当てるなどの工夫が必要である。
4−3.海水の浄化を主目的と和する事業の推進
(1)負荷削減の重視
内湾の海水汚染を扱う場合、東京湾や大阪湾では流入する負荷量の7割が生活排水関係であるとういうことになると、この生活排水こそ海水汚染の主役の一員であるとすることには異論はないであろう。21世紀初頭までに窒素、リン含有率0の完全処理技術の開発も進められているようだが、どの程度まで技術的に可能なのか、またそれに要するコストはいくらであるか明らかでない。おそらく実験室規模では可能であっても実用化まではまだ時間がかかるであろう。高いコストを将来継続的に水道料金などに上乗せするのも問題のようである。
(2)下水の処理水放出先の検討
それでは負荷量削減は難しいということになるかというと、これととって代わる手段があるかどうかということである。
すなわち下水処理水の放出先を従来のように処理場の前面海域−そこは往々にして湾奥部一とする、という固定概念にとらわれず、場合によっては沖合い、または湾外への移動を検討することである。近年、臨海部の多くは開発がすすみ、地形、水深、流れ、希釈・拡散特性などが元の自然条件とは異にしてきているため、処理された下水の放流先もこれらに応じて移動すべきである。いま、河川、流域内においても負荷源から分配放流して流域内の汚染を防除する方法が研究されているが、その手法の海域版ともいえる。
(3)放出先移動の長所
一般に、湾奥部から内湾湾央部、湾外、海洋に向かうに従って、流れや希釈・拡散効果は大きくなり、水温は夏場は高から低へ、また、栄養塩、有機物濃度は高から低へと変化する。
このような流れや水質などの分布特性を考慮して放出点を選ぶ。この処理水は、栄養塩濃度が高いため、湾奥部からできるだけ離れた点に放流先を求める。こうすることによって湾内の富栄養、または、過栄養状態は緩和され、放出先では処理水によって栄養塩を得て生産力を上げようという方法である。つまりここでは処理下水も資源として考えみてはどうかということである。
(4)海洋(沖合い)放流の海外事例
海洋(沖合い)放流はわが国ではその例をほとんど見ることはないが、オーストラリア、アメリカでは常識となっている。シドニーでは、250万市民より発生する生活排水を3カ所に集約し、一次処理した後2kmから4km長の海底パイプラインにて沖合い放流をしている(図−4参照)。
数年前に竣工したプロジェクトであるが、これは住民の強い要望から生まれた。事業費の一部を5年間の特別環境税で賄うという異例の措置がとられた。この方式によって海岸環境の整備に大いに効果が上がり、海水、砂浜ともにきれいな海岸を取り戻したとされている。一方、放流先において、漁業者などから苦情がないのか気になるところであるが、精神的な反対論者はいるにせよ、悪影響と思われる兆候はなにもでていないようである。パースその他の市でも類似の事例を見ることができる。
アメリカも外洋放流方式を早くからとっている。今世紀末を目標に今事業の最盛期にあるボストン港プロジェクトは、同市から2つの島を経由して約25km沖合いに処理下水を放流しようとするものである。ここでは下水は二次処理までされ、油分の分離、沈殿物の除去、曝気、臭いの制御、滅菌などが行われる(図−5参照)。州のプロジェクトであり、当初は一次処理水を対象に考えていたのが連邦側の強い指導にあって、変更され現方式になった。本事業は緊密な住民参加の

 

 

 

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